スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
天国のすぐ隣
 学生時代、授業中に眠っちゃいかんと思いつつトロトロとまどろんでゆくのは、罪の意識が微妙な苦味を添えてなかなかに味わい深いものであった。
 高校生の頃、よく寝た。そもそも昼食直後にある授業なぞは、生理機構に反すること甚だしく、健全な人々の間では「昼飯のあとは昼寝」というのが当たり前となっている。
 その頃はまだ健全な心と体を持っていたぼくは勿論「昼飯後はシェスタ」と決めていた。
 
 授業中の睡眠にも様々なスタイルがあって、何とか眠るまいと懸命に教科書を睨んでいる、比較的真面目なヤツから(そういえば、目を開けて教科書を見ているにも関わらず、よく聞くと寝息を立ててるヤツもいた。これはいわゆる「気絶」ではなかろうか)授業に関係のあるジャマなものは一切合切しまいこんで、広々とした机の上に突っ伏している剛の者までいた。
 この様にそれぞれのスタイルで平和な午後を楽しんでいるときに、何がどう作用するのか知らないが、突然全身が「痙攣」に見舞われることがある。これがまことに恥ずかしい。今まで机に突っ伏していたヤツが、ひどいときには膝で机を蹴り上げて目覚めるのだ。うまい具合に、そういうときに限って静かな授業が多い。これをやると一瞬にして目が冴えてしまう。恥ずかしさからくる冷や汗と寝汗が一緒になって襲ってくる。本人は完全に目覚めているのに、恥ずかしいものだから、そのまま眠ったフリをする。そして大抵の場合、その後しばらくしてから、おもむろに目覚めたフリをするが、周囲の者は、すっかりこれを見破っていたりする。なんという恥ずかしさ。

 最もスペシャルな例では、ぼくの隣の席で気持ちよく眠っていたシライ君が、あらゆる授業の中で最も閑かな古文の時間に突如、
「ずわぁっびっくりしたぉあ!」
と絶叫し、机を蹴り上げて目覚めたことがある。筆箱の中身が飛び散り、教科書は宙を舞った。びっくりするのはこちらである。皆一様に目を剥いたものだ。
 一番前の席でガンガン寝ていたところ、机を抱きかかえた姿のまま、遂には机ごとひっくり返ったヤツもいた。ぼくのことではもちろんない。教師は一連の出来事を完全に無視して授業を続けた。悲しい伝説である。

 甘美なる居眠りの中、様々な「恥伝説」を創り続けるこの「寝痙攣」だが、何事にも上には上があるもので、「寝痙攣」どころではない伝説を残した男がいる。それは一体何であったのか。

 -------------- 寝屁。

 寝屁、である。ネヘ、なんである。何事もカッコよくいきたい、例え居眠りであろうとも渋くキメたいこの年代に、しかも公立高校普通科の男女共学のクラスで、ノートをとる鉛筆の音すらきこえる静寂の中で、よりにもよって「寝屁」である。
 我が家に帰り、メシを食って風呂に入り、満ち足りた気分で、一日の終わりに誰はばかることなくバボンとやらかす、寝屁。
 悪いことには、彼の後ろの席は女のコであった。通常ここまで条件が揃うと、これは「死」を意味する。もはや華の高校生活において青春を謳歌する資格も意義も剥奪されたに等しい。くどいようだが、ぼくのことではない。

 教室に低く響いた「・・・ぶぅ」の瞬間から、彼がどのような生活を強いられたかは想像に難くない。彼は今なお、遠い目をして語る。「・・・あれは・・・辛かった・・・」

 そう、地獄とは、天国のすぐ近くにあるのだ。おそろしいことだ。

未分類 | 00:57:23

FC2Ad

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。